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逢いたかったひと 33
箸でケーキを口に運ぶ省吾をぼんやりと眺めていると、気付いた省吾が眉間にしわを寄せる。
「ぼけっとしてると休憩終わるぞ」
「あ……うん」
言われて再び箸を握ったが、その前にと顔を上げた。
「省吾、……ありがとう」
「何だよ改まって。俺じゃなくて親御さんに言え」
「え?」
「親御さんに感謝だろ、誕生日なんだから」
省吾は当たり前の事のように言い切り、賄い丼を食べはじめた。それをぼんやりと眺めていた俺に気付くと箸を止め、ため息混じりに顔を上げた。
「今度はなんだよ」
「……いや」
「何だよ気持ち悪りぃな、言え」
「……誕生日なんて、母親に対して申し訳ないと思うばかりだったなと思って」
頭に浮かんだそのままを口にしてしまい、言うんじゃなかったと後悔する。
省吾は目を丸くして二回程瞬きを繰り返し、それから丼に目線を落として、ふぅんと小さく呟いた。
「まぁ、ひとんちの家庭事情に首突っ込む気はねーけど」
何とごまかそうかと言葉に詰まっていると、省吾はボソリと言葉を続けた。
「謝罪より感謝のが、聞く方は嬉しいんじゃねぇの」
わかんねーけど、と呟いた後、省吾はガツガツと丼を掻き込み、俺も黙って食べはじめた。
半分になったショートケーキを眺めながら、心の中の小さなしこりが、ほんの少し揺らいだ気がした。
(謝罪より感謝、か)
ガツガツと箸を動かしている省吾をチラリと見つめた後、ふっと頬が緩んだ自分に気付き、何だか可笑しくなった。
省吾が紡ぐ言葉は、何でこんなにも心に染みるんだろう。
残りわずかの休憩時間、煙草に火をつけ、省吾に煙が行かないように吐き出す。煙草を吸わない省吾は、食事を終えるとスマートフォンを弄り始める。
俺は煙草の煙を眺めながら、二人の空間に流れる沈黙を心地好く感じていた。
ふと頭に浮かんだ言葉を、何気なく口にしてみる。
「省吾の誕生日って、いつ」
「四月三十日」
スマートフォンから顔を上げずに答える省吾を眺めながら、新緑の季節だな、などと考え、はたと気付く。
誰かの誕生日を自分から聞くなんて、初めての事だ。
俺は省吾の誕生日を、しっかりと心に刻んだ。
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