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逢いたかったひと 40
身体を離し省吾の顔を正面から見つめると、眉間にシワを寄せ唇をぎゅっと噛み締めた省吾に、見つめ返された。
「俺に、会いたかった?」
「わかんね……」
開きかけた唇をふさぐように唇を重ね、そっと吸い上げ音を立てると、省吾の身体がぴくりと揺らぎ、俺の背中から手を離した。
逃がさぬように、抱きしめる腕に力を入れ、再び唇を重ねる。滑りこませた舌を省吾の舌に絡ませると、省吾はぎゅっと目をつぶった。
「キスしても怒らない?」
「……してから聞くな」
「嫌じゃない?」
「……わかんね……けど」
言葉に詰まる省吾がもどかしく、俺は再び舌を絡め、何度もキスを繰り返す。
「んっ……ハ、ル……」
「わからなくても、いい」
今はまだ。
「でも、許してくれるなら、こうしていたい」
両腕で抱きしめると、省吾は居心地悪そうに身体をよじった。
「……勝手に、決めんな……」
息を吐きながら俺を見上げる省吾を愛しく思う。
こんな表情、誰にも見せたくない。
「俺を、受け入れて欲しい、少しずつ」
再び唇を重ね合わせて開いた隙間から舌先を押入れ、体温を確かめるように省吾の舌を絡め取ると、わずかに絡めかえしてくれた。
「んっ ん……」
苦しそうに喉から漏れる吐息に、身体中が熱をもっていく。
「省吾、好きだ」
「……そんな、簡単に言うな」
「簡単じゃない、でも他に言葉が見つからない」
「っ……」
「好きだ……」
両腕で包み込むように省吾の身体を抱きしめると、省吾は観念したように小さく溜息をつき、額を俺の胸に押し当てた。
その全てに愛しさが込み上げて止まらない。
俺だけのものに。
省吾の身体を包み込むように抱きしめる。
離さないように、離れないように、開きかけた扉が、閉ざされないように。
「誕生日、おめでとう」
これから先、きみが生まれた朝にきみを抱きしめるのは、俺でありますように。
「わかんねぇけど……嫌じゃ、ない」
微かに聞こえた省吾の言葉は、俺の心に優しく響いた。
<終わり>
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