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きみはまだ僕を知らない(大学四年生 秋)1

 大学生活も四年目の秋を迎えた。  就活を終えて単位も取り切った周りの学生達は、卒論とゼミの他に一人旅へ出たり短期留学を計画したりと、残り少ない学生生活を満喫している。  俺はといえば、ゼミと卒論と、空いた時間はフルにバイトで大忙しだ。  学の無い母親から半ば強引に「お前は大学へ行け、でも金はないから国立へ行け」と無茶振り過ぎる要求を受けて、しょうがねぇから叶えてやるかとひとふんばりしてなんとか合格したものの、母子家庭で生活に苦労してきた母親から仕送りなど貰うわけにも行かず、奨学金の返済も肩に乗り、バイトの合間に通学と勉強、生活の軸はバイト、というまあまあハードな学生生活を送っている。  そんなだから大学には友達と呼べる程の間柄の奴はいないし、同世代と合コンだの遊びに出た回数は片手で足りる程度だ。  こんな生活で何故と驚かれるけれど、彼女はいる。大学一年の時に呼ばれた合コンで知り合った京香に気に入られて気がつけば付き合う事になっていた。まあいいかと関係を続けて、なんだかんだと現在進行形だ。  忙殺される日々も特に不満はない。自分の生活の邪魔をする奴がいなければそれでいい。  とまあこんな詳細を長々と説明するのも面倒なので、バイトと大学の往復で生きているからその誘いには乗らないと、短い言葉で返答した。 「毎回思うんだけど、お前の生活サイクルでよく彼女と続いているよなあ」  バイト仲間の梶が、煙草をふかしながら率直な感想を口にする。  同じ大学四年だけれど、俺とは環境が大分違う。こいつが旅に出ようぜなどと提案してきたものだから、こんな話になったんだ。  賄い飯のチキンライスを頬張りながら、まあそういうことだから行ける奴らで行ってくれと返事をした。彼女に関しては、はっきりいって俺も同意見だ。なんで俺と付き合っているのか、よくわからねぇ。 「浮気とか疑ったことないの?」 「知らね。聞いてねぇし、見てねぇし、別に。浮気するくらいなら別れるんじゃねぇの」 「はは、お前ってほんとなんつーかアレだよな。基本ドライだよな」  カラカラと笑う梶の言葉を聞きながら、俺はコップの水を一気飲みして食事を終了した。壁時計を見上げると、もうすぐ二十時。 「幸田の奴、まだ来てねえよな、八時出勤だってのに」  俺が舌打ちをすると、梶も壁時計を見上げた。

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