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きみはまだ僕を知らない 2
「ほんとだ。遅刻多いね~あいつ。そういや省吾、相変わらずあいつにちょっかい出されてんの?」
俺がジロリと睨むと、梶は「あ、されてんのね」と顔を引きつらせた。俺の機嫌が悪くなったと察した梶の行動は素早く、さて仕事に戻るかと言いながらホールへ戻っていった。
思い出したらむかついてきたところで更衣室の扉が開き、元凶の幸田が現れた。噂をすればなんとやら。
「おー、省吾、休憩中か」
「おー、じゃねぇよ。お前八時出勤ならもっと早く来いよ」
「はいはい、さーせん。省吾くんは真面目だねぇ。流石バイトリーダー」
ヘラヘラ笑いながら制服に着替える後姿に舌打ちをしてから席を立つ。食器を手に持ち更衣室を出ようとしたところで尻を揉まれて、危うく皿を落としかけた。
振り返って睨みつけても、男は何処吹く風だ。その表情に俺の苛立ちは倍増する。
「お前な……、触んなっつってんだろが」
「はは、目に入るとどうにも触りたくなっちゃうんだよなあ、省吾のケツ」
「やめろっていってんだろ、次触ったらまじでぶち殴るからな」
怖いな~と笑う男を残して勢いよく扉を閉めた。
あの男が一ヶ月前に入ってから、おれの尻が大変な被害を被っている。一度や二度ならまだしも、仕事中に揉むわ触るわ、とんでもない執着を見せるあの男はなんなんだ。雇った店長に抗議するのも秒読み段階だけれども、その前に直接制裁をくわえてしまいそうだ。
(次きたらぜってー殴る)
俺の尻は俺が守らなければ。
◇◇◇
決意を固めた数時間後、トイレ掃除で顔を突き合わせていた最中に事件は起きた。
「幸田サボるんじゃねぇよ、手を動かせボケ」
デッキブラシで床を磨いている俺の後ろで、洗面台に寄りかかりあくびをしている男を睨むと、アホな面をしてとんでもねぇ事を言い始めた。
「俺、すげぇ尻フェチなんだけどさ、省吾の尻はほんとマジで犯したいレベルに良い形してるんだよな。一発だけでいいからやらしてくれねぇかな」
「お前、それ以上気持ち悪い事言いやがったらマジで追い出すぞ」
「そもそもバイトに入ったのだってお前とヤれるチャンス狙ってきただけだし、ヤッたらやめても全然いいし。なんだったら言い値で金払うぜ、お前金稼ぐの趣味だろ、単発バイトだと思ってさ」
背後から覆いかぶさるように抱きつかれて、幸田の両手が俺のベルトを掴んだ瞬間、頭の中で何かがブチンと切れた音がした。
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