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きみはまだ僕を知らない 3
持っていたデッキブラシを振り上げて幸田の脳天に直撃した事を確認し、振り向きざまに頭突きを食らわす。呻いてうずくまった幸田の脇腹に二発蹴りを入れてから、背中にデッキブラシを三回振り落とし、更にトイレ外へと蹴り出した。
「いってぇえええてめ、なにしやがるっ!」
「クソが、今すぐ出て行け、おら立てこら!!」
騒音を立てながらトイレから出てきた幸田と俺に驚いた店員達が駆け寄ってきた。
「な、なんだおまえらなにやってんだ!?」
「おい誰か幸田の荷物持って来い! 早く!!」
駆け寄ったバイト仲間に怒鳴りながら、逃げようとする幸田の背中を追いかける。後から冷静になって、ホールに客が残っていなかったのが救いだったけれど、この時の俺は完全にブチ切れていて、周りなんて何も見えていなかった。
レストラン入口から幸田の背中に蹴りを入れて転がり落とし、バイト仲間が持って来た幸田の荷物を放り投げた。
「しょ、省吾、店長に言った方が……」
心配そうに助言するバイト仲間をうるせぇと一喝して、ひっくりかえっている幸田を睨みつけた。幸田も真っ赤な顔で俺を睨みつけながら、荷物を拾って立ち上がる。
「バッカじゃねぇの、こんな店こっちから辞めてやるよ! 優しい顔してやりゃあ付け上がりやがって、てめぇおぼえてろよ」
「お前の顔なんかおぼえてられるか、消えてせいせいするわ、二度と面見せんな!」
悪態をつきながら立ち去る男の後姿を見送り、ふううと息を吐いたあとに、すぐそばでしりもちをついている男の姿が目に入った。
今の騒ぎに巻き込まれた通行人だろうか。深く考えなくてもそうにしか見えない。
「あんた、ぶつかったよな、わりぃな」
慌てて手を差し伸べて、転がっていた男を引き上げて起こすと、俺よりも数センチ背の高い、随分と綺麗な顔立ちをしたお坊ちゃんみてぇな男だ。同じ歳くらいか、服装から大学生くらいに見える。
男は驚いたような、困ったような表情で、眉間に少ししわを寄せて、俺をみおろした。
<「会いたいと願う気持ち」に続く>
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