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会いたいと願う気持ち 2

 バイト先のレストランから自宅までは一駅程離れているけれど、徒歩で三十分かからない程度の距離だ。出先からの出勤でなければ行きも帰りも徒歩通勤が通常で、交通費を浮かしている。帰宅途中にあるガード下の小さなおでん屋に入り、ハルと俺はカウンターに並んで座った。古びた店だが安くて美味いので、寒い日は時々ひとりで寄っている。 「いらっしゃい、今日は友達と一緒かい、珍しいな」  驚いた表情で笑う店の親父にバイト仲間だよと軽く説明をすると、ハルも笑顔で会釈をした。  カウンターの前にあるおでん鍋から立ち上る湯気とおでんのいい匂いが鼻をくすぐる。熱燗を一本と、大根を頼んだ。ハルは玉子とちくわ。  あったかい酒をのみながら、好きなおでんの具の話になった。ハルはちくわだと言い、妙に納得する。ちくわが好きそうな顔をしているなと思ったままを口にすると、腑に落ちない顔をされたのがおかしくて少し笑った。  ちなみに俺は昔から大根一択だ。コンビニおでんも、大根以外買った事はない。思えば母親が作るおでんの具は八割大根で、余ったスペースにいくつか別の種類が入っている程度の割合だったから、「おでんといったら大根」と洗脳されているのかもしれない。  なんにしろ、おでんの大根は美味い。  大根をかじりながらちびちびと酒を飲んでいると、ハルに「追いかけなくて良かったのか」と聞かれた。  京香の事かと気付けば、今更な事を聞いてくるなと他人事のように思う。まあ、あんな修羅場の声だけを聞いてしまったハルからしたら、気になるところなのだろうか。 「鍵持ってたし……バイト前にあいつんち寄ったら、知らねぇ男とヤッてたから鍵置いてサヨナラ」  ありのままに話したら、「あー……」と痛そうな表情をされた。 「と思ったらバイト先まで押しかけてきて散々責められるわ、怒れとか言われるわ、訳がわからねぇ」  ぼそりと呟くと、「淋しかったんだろ」と返された。  まあ、その通りだなと心の中で頷く。  京香とは、大学一年の頃に無理矢理連れて行かれた飲み会で知り合って告白されて、流されるままに付き合い始めたんだったなと、と久々に当時の事を思い出した。

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