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会いたいと願う気持ち 9
「なんだよ邪魔なのが一人いるぞ」
俺の腕を掴んだ男が声をあげると、助手席から男が一人、後部座席からもう一人、反対側のドアから降りてきた。全員パーカーのフードを頭から被って顔が良く見えないけれど、一人はすぐにわかった。
「幸田! ふざけんじゃねぇぞてめぇ」
「相変わらず猿みたいにうるさい奴だな、話がしたいからさ、さっさと車に乗れって」
面倒だから二人とも車にひきずりこめと声が聞こえた。雨音が強くて声はすぐに掻き消される。掴まれた腕を振り放そうとしても離れず、だったら顔をぶち殴ってやると構えた瞬間、目の前で男が車からひきずりだされた。やったのは俺じゃない。更に引きずり出した男の頭を掴み、サイドウィンドウに叩きつけているのは苛立った表情で睨みを利かせているハル。そんなキャラだと思っていなかったから、あっけにとられてしまった。
「このっ……」
ハルが背後から拳を振り上げた男に軽く視線を送ったのは一瞬で、男が拳を
振り下ろすよりも先にハルの蹴りが鳩尾にヒットして、男はあっけなく吹っ飛んだ。
「お前達、何してるの? これもう犯罪だよ?」
発したハルの声はやけに冷静で落ち着いているのに、聞いた瞬間、背筋にぞくりと悪寒が走った。
車に叩きつけられて地面に倒れこんだ男の脇腹を蹴り飛ばし、背中を踏みつけて、その先で立ち尽くしている幸田の前に立ちはだかったハルの背中に声をかけても振り返らない。ヤバイ、こいつ何かのネジがぶっとんじまったんじゃねぇだろうか。
「おい、邪魔してんじゃねぇぞお前」
言いながらも一歩後ずさった幸田に対して、ハルは一歩詰め寄った。
「逆恨みで省吾に危害を加えようとするのはやめろ」
「うるせぇ!」
幸田がハルに殴りかかり、拳がハルの頬に打ち込まれた。殴られたというより、明らかに、わざと殴られたように見えた。
「ハル!」
慌てて駆け寄ると、ハルは打たれた頬に手を当てて、ニコリと微笑んだ。
「殴られたから、正当防衛だ」
「な……」
ハルは俺の身体を押しのけて、再び幸田に向かっていった。
「こんな弱い一発しか当てられない男が、頭数揃えたもんだから強くなった気になったのか? 面白いな」
「くそっ、おい氷川お前も出て来い!」
運転席に向かって声を荒げる幸田は完全に腰がひけていて、ハルの圧に怯えているのがわかる。そんな男でもハルから許す気配はなく、瞬きをした一瞬で幸田は殴り倒されていた。
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