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会いたいと願う気持ち 10

「ひとりで出てくるならまだマシだったのに、多勢に無勢って一番最低だよ」  呻いている幸田に背を向けて、ハルは車の後部座席から車内を覗き込み、運転席に向かって声をかけた。 「車のナンバーもお前達の顔も全部記憶したから、今度また省吾に少しでもおかしな事をしたら即警察に突き出すよ。転がってるお友達拾って、さっさと帰ってね。アンタの顔もミラー越しにしっかり見えてるよ」  振り返ったハルは全身びしょぬれで、俺も全身びしょぬれで、ハルは参ったねと小さく笑った。俺は勿論笑えなくて、道路に転がった傘をひとつ掴み上げたハルの姿をただ、眺めていた。 「傘ひとつ壊れちゃったな、こっちは使えそうだ。省吾、コンビニの袋は大丈夫?」  言われて自分の手を見下ろせば、無意識にもしっかりと握り締めたままだった。ビールも明日の食材も無事だ。  ハイと傘を差しかけられてハルを見上げると、いつもの穏やかな表情で「寒いし、早く帰ろう」と背中を叩かれた。  雨の中、びしょびしょの二人がよれた傘ひとつ差して歩くのもかなり変だよなと話しながら歩いているうちに、張り詰めていた緊張が少しずつほどけていく。 「お前、殴られたとこすげえ腫れてきてるぞ、……巻き込んで本当に悪かった」 「巻き込まれたなんて思ってないよ。来るなら今日辺りかなと思ってたし」 「なにが?」 「幸田が省吾に何かしてくるなら、こんな雨の日かなって予想してたから」  なんでもない事のように言うハルの横顔をしげしげと見上げた。  こいつ、だから今日うちに泊まりたいなんて言ったんだろうか。 「お前さ……なんでそこまでしてくれんの、わけわかんね。もっと危険だったらどうするんだよ、あぶねぇだろ」  そんなに気遣って貰う理由が思い当たらなくて、雨音に消える程の声でぼそりと呟くと、ハルはそれを聞き逃さなかった。 「だって省吾はもう友達だから、危ない目にあって欲しくないし、それに、俺は多分それなりに役に立つと思ってたから。無鉄砲なわけじゃないよ、大丈夫」  それより早く帰ってシャワー浴びないとこれ絶対風邪引くよねと言いながら足を早めたハルのペースに合わせながら、ハルという人間について認識を上書きした。  こいつは頭が良くて、料理が出来て、腕っぷしも強くて、自己評価が適切で、もしかしたら予知能力まであるのかもしれない。あと、キレたら多分やばい。 (こいつって、一体どんだけ顔もってんのかな……)  雨に濡れても端正な横顔を覗き見しながら、悪い奴じゃ無さそうだしまあいっか、と思うことにした。

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