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会いたいと願う気持ち 11

◇◇◇◇  十二月二十四日、時刻は夕暮れ。  街中がイルミネーションを着飾っているこの日、クリスマスムード最高潮に盛り上がりを見せているクリスマス・マーケット会場で人混みに揉まれまくって、息も絶え絶えなこの状況。苦行以外の何物でもない。ちなみに昨晩は飲み過ぎて記憶を失くし、今朝は二日酔いでしんでいた。 「省吾、私はグリューワインね。あとソーセージの盛り合わせ。あとは好きなの選んできて。ここで待ってるからよろしく!」  大混雑の休憩スペースでやっと席を確保した後、食べ物を買ってこいと俺に命令している人物は、見た目が若ければ気も若い、俺の母親。  カップルどもが浮かれ歩く日本のクリスマスイブに、実の母親と日比谷公園で待ち合わせ、クリスマスマーケットなんぞを散策する事になるとは。  会場はイルミネーションで彩られた山小屋風のブースが軒を連ね、飲食店ブースではホットワインにドイツビール、ドイツ料理に甘い菓子などを販売している。何店舗もあるのに、どこもかしこも長蛇の列だ。  通路もすれ違う事すら困難な程の混雑ぶり。カップル、ファミリー、日本人から外国人までごった返して大変な騒ぎだ。うんざりしながらも、とりあえず一番列の短そうな店を選び、最後尾についた。 (この状況を冷静に考えたら発狂する……もう無になるしかない)  グッタリしながら腕時計に視線を落とせば時刻は十六時。母親から暇なら付き合えと半強制の電話が来たのが十時で、待ち合わせは十四時だったから、もう二時間もここに滞在している事になる。しかもこの後十八時からバイトで、多分大忙しだろ。しぬ未来しか見えない。  購入したホットワインとビールとソーセージとポテトフライを盆に乗せ、ヨロヨロと再び席へ戻ると、母親はスマホを弄ってのんびりと寛いでいた。悠々自適じゃねぇか。  やっと腰を降ろしたところで、俺は盛大にため息を吐いた。

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