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会いたいと願う気持ち 15
◇◇◇
どうしてこんなことになったんだ。
殺風景な俺の部屋で、ハルと俺はコタツに入って乾杯した。時刻は深夜0時を過ぎていて、軽く飲んで寝るつもりだったんだ。ビールとケーキを出したらハルは驚いた顔をしたけれど、その後はいつものようにテレビを見ながらくだらない話をして軽く笑ったり、何もおかしな事はなかった。
ハルの目が変わったのは、昨晩の宴会の話題になってからだ。
店長にちょっかいを出されていたぞと苦言するハルに、そんなのよくある事でギャグみたいなもんだと説明した途端、目つきが変わった。ぎゅっと眉間にしわを寄せて、正面から俺を睨みつけてくる。
「あの時、自分でどんな声出したかわかってないだろ」
「声?」
酔っ払って気持ち悪くなって、立ち上がろうとしたら酒が足にきて立てなくて、店長の肩を借りてトイレまで移動した事は覚えている。
店長に身体を支えてもらいながら、便器に向かって吐こうとしても全然吐けなくて、とにかく気持ち悪くて呻いていた事もなんとなく覚えている。
でもこの話のどこでハルがキレる必要があるんだ。苛立った表情で睨みつけられても意味がわからねぇ。むかついて睨み返した直後、立ち上がったハルに肩を掴まれて、畳の上に押し倒されていた。
「いてっ、なにす……」
なんでいきなり喧嘩売られてんだ。急に酒が回ったのかと驚いて振りほどこうとした腕も身体も力でねじ伏せされて、次の瞬間には唇が重なっていた。
何が起きたのか頭で理解できないまま、振り切ろうともがけば頭ごと押さえつけられて、舌までねじ込まれた。何が起きた、何で、どうして。こいつは一体、何をやってるんだ。
「ふざ、けんなっ……」
やっと口が離れて、抵抗しながら声を上げた俺をハルは真っ直ぐに見つめ、好きだと言った。ひとつの揺らぎもない二つの瞳に見下ろされて、動けなくなる。酔ってなんかいないとわかった。わかったけれど、理解出来なかった。
「お前、なに言っ……」
「好きだ、好きだ、好きだ」
「ハ……」
「省吾が、好きだ」
糸が切れたみたいに、堪えていたものを吐き出すように、ハルは何度も同じ言葉を繰り返した。それはまるで鋭利な刃物で、容赦なく俺の身体に突き刺さる。
「好きだ……」
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