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会いたいと願う気持ち 24

 店長がマスターに三人分の二杯目を頼んでいる横で、井上さんが思い出したように俺に向かって口を開いた。 「そういえばあの後、幸田くんから仕返しとかされてない? あいつは闇討ちしかねないって、バイトの皆も心配してたよね」 「……あー」 「えっ、何かされたの? 大丈夫だったの?」  うっかり顔に出てしまって、井上さんに食いつかれた。まずい、ここはスルーするところだったのに失敗した。店長まで「何かあったの?」とぎょっとした表情で顔を近づけてくるものだから、俺は右手で頬杖をつき、口元を隠しながらモゴモゴと曖昧な言葉を吐いてごまかした。 「いや……一度バイト帰りに待ち伏せされたっつーか、でもハルも一緒に居たし、別に、大丈夫だったんで……それ以来なんもないし」 「うわあ、そんな事あったの……何事もなかったなら良かったけど」 「ハルの事だから、省吾の事を心配して付いてたんじゃないの? あの子勘鋭そうだし」  店長の言葉にギクリとする。前々から思っていたけど、このおっさん、何気に鋭いのだ。下手に喋ったら追求されそうだし黙っていようと口をつぐんだタイミングで、マスターが二杯目を置いてくれた。スプモーニだ。口当たりの良いさっぱりとした甘さで美味い。 「ハルといえば、省吾の事絶対好きだと思うんだよね。省吾はどう思う?」  は?と顔を上げれば、綺麗に整えられた顎鬚を左手で擦りながらニヤリと笑みを浮かべる店長と目があった。 「店長が言うと一々あやしい含みが入りますよ、もう。ハルくんにはちゃんと彼女がいるでしょ」  あははと笑う井上さんの言葉に俺も軽く頷いて、話を切り上げようとしたにもかかわらず、店長は更に追及しようとしている。かさぶたを剥がされそうで怖い。やめてほしい。 「クリスマスの話ね。あれもねぇ……俺はちょっと違和感を感じたんだよなあ」 「違和感て、何がですか?」  きょとんとした井上さんの頬をツンと突く店長。俺に同じ事をしてきたら絶対に阻止してやる。

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