121 / 428

会いたいと願う気持ち 25

「三上くんは浮かれちゃってて多分何も気付いてないと思うけど、あの時のハルの言動、おかしくなかった? 困ってるなあって思ったよ。あんなに彼女の事を褒めちぎられて困った顔するって、ちょっと変じゃない?」 「うーん? 恥ずかしかったとか。プライベートを晒されたくないとか」 「プライベートね、まあそういうのもあるのかもしれないけど、なんて言うのかなあ、ピンと来たっていうか……付き合ってないんじゃないかなあって思ったんだよね」  スプモーニをゴクリと飲みこんだところで、軽くむせた。井上さんは、ええーと疑わしそうな声をあげている。 「クリスマスイブに三ツ星シェフの高級レストランですよ? 彼女じゃなかったらなんなんですか、どう考えても彼女でしょ。それにハルくんが嘘つく理由なくないですか、モテない男じゃないだろうし」 「あいつ、結構前に聞いた時に彼女いるって言ってましたから、彼女ですよ店長」  井上さんの言葉を後押しするように早口で言い切ると、店長は髭を触りながら「うーん、そうかぁ」と納得いかない様子で唸っている。 「そんなことより店長、バイト募集の方はどうなってるんスか。三月には就職組が五人一気に辞めるんですから、今のままじゃヤバイでしょ。年明け早々には新規雇って育てないと」 「お、流石バイトリーダー。お店の事考えてくれてるねぇ、偉い偉い」  頭を撫でられて、それやめてくださいと切り返す。 「そうだよね、省吾達が居てくれるのもあと三ヶ月かあ……淋しくなるなあ」 「井上さん、淋しくなるの早いッスよ。まだ三ヶ月働きますから」  バイト生活もあと三ヶ月。バイト仲間と過ごすのもあと三ヶ月かと改めて思えば、感慨深い気持ちになる。長いやつとは丸三年の付き合いだ。新生活が始まれば、会う機会もそうそうなくなるだろうしなと思った時、ふとハルの顔が浮かんだ。 (……なんでここで一番付き合いの短いハルが出てくるんだ。一番長い付き合いは梶じゃねぇか)  思わず心の中で突っ込みを入れて我に返れば、店長と井上さんは話題を変えて仕事の話を始めていた。

ともだちにシェアしよう!