124 / 428

会いたいと願う気持ち 28

 ハルも年明けから出勤日数が減っているので、顔を合わすのは数日振りだ。クリスマスの一件以来、仕事以外で話をする事はなかったから、そういや今普通に会話が出来ているなと気付いて少し不思議な気持ちになった。久々に顔を合わせたからだろうか。  んっ、んっ、と喉を鳴らす音がしてハルの横顔へ視線を向けると、なにやら喉を押さえている。 「なんだよ、風邪か?」 「あ、ごめん。いや、喉に違和感程度……帰りにのど飴買って帰るよ」  年末の自分を思い出す。そりゃあ確実に風邪の引き始めだ。 「風邪だろ。帰ったらちゃんと薬飲んどけよ」 「うん、ありがとう」  そういえば、と思い出し、コートのポケットをゴソゴソと漁ってみる。 「あった。のど飴じゃねぇけど、これやるよ」  ハルに向かってそれを突き出し、反射的に差し出されたハルの手の上に乗せる。それをハルは少し驚いた様子で繁々と眺め、それから俺の顔へ視線を戻した。この表情《かお》、以前もどこかで見たなと思ったけれど、いつだっただろうか。 「これ、くれるの」 「それ知ってるか、舐める飴じゃなくて噛む飴なんだぜ」 「パッケージは有名だから知ってるけど、そういえば食べた事はないかも」 「飴業界じゃ一番美味いな。俺は子供《ガキ》の頃から食べてる」  苺柄のセロファンで左右を搾った、昔ながらの飴包みがトレードマークの苺ミルク飴。疲れた時にガリガリと齧るのが好きで、ポケットに入れている。それを三粒ハルの手の上に乗せてやったのだ。我ながら大盤振る舞いだけれど、風邪の引き始めならしょうがない。 「……うれしいな、ありがとう」  そういってハルは嬉しそうに口角を引き上げ、おもむろに一粒を口に含んだ。ガリ、と飴を噛む音が聞こえる。 「甘いね」 「苺ミルク味だからな」  ガリガリと音を立てながら、ハルがふふっと笑った。なんで飴を齧りながら笑うのか。コックコートを羽織りボタンを留めていると、ハルが二粒目を口に入れて再びガリガリと音をたてはじめた。

ともだちにシェアしよう!