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会いたいと願う気持ち29
「おい、今全部食う気かよ」
「一粒は残しておくよ」
「ふぅん、気に入っただろそれ」
「うん……これをどこかで見かけた時には必ず省吾を思い出すと思う」
「なんだそれ。故人を思い出すみたいな言い方すんなよ」
苺ミルク飴で思い出される俺っておかしくないか。やめて欲しい。もう少し抗議しようかと考えていると、先に着替え終わったハルが「時間までゆっくりしてから来るといいよ」と言って先に更衣室を出て行った。
ふと、自分も食べたくなって飴を一粒取り出し、口に放り込む。ガリガリと音を立てて噛み砕きながら、ハルの風邪がひどくならなければいいなと思った。
◇◇◇
二月に入り、とうとう関東にも積もる程の雪が降った。雪国の人々からしたら大した事ないんだろうけれども、俺からしたらとんでもない事態だ。雪を見てはしゃぐ奴らの気がしれない。エアコンのない俺の部屋は朝から極寒の世界だし、とにかく寒すぎて元気も出ない。部屋に居るのにダウンジャケットを着込み、昼間はひたすらコタツに入って過ごした。
夕方からバイト先のレストランへ出勤すると、雪の日にもかかわらず店内は早くも混み始めていた。今日は建国記念日で祝日だから、ファミリー層が多い。ホールには、キャッキャと笑う子供達の声も響いている。今日の担当はホールで、ハルと新人と俺の三人だ。ハルと一緒の日は、新人の行動を良く見ていてフォローも早いので助かる。店長が「優秀な人材」だと褒めていたけれど、まったくその通りだ。
扉が開く音と共にいらっしゃいませと振り返ると、新規客は若い男女のカップル。二人は店内をぐるりと見回し、誰かを見つけて手を振った。視線の先を追えばそこにはハルが居て、ぎょっとした表情をしているので知り合いだなとすぐに気付く。
(知り合いならあいつに任せればいいか)
予想通りすぐにハルが応対に付き、席へと案内を始めた。
「ハルくんの働く姿を見にきちゃった」
「誕生日にバイトなんてしてる可哀相なハルに、おめでとうを言いにきたの俺達」
「煩いバカップル。こちらへどうぞ」
すれ違い様に三人の会話が聞こえて、思わず耳をそばだてる。誕生日。
(あいつ、今日誕生日なのか)
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