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会いたいと願う気持ち 31

 オーダーを取りバックヤードへ戻るとハルの姿はなく、厨房へオーダーを伝えると奥から梶が出てきた。 「ハルが飯休憩入ったんだけど、この後ホール混みそうだし、省吾も入れそうだったら今のうちに入っといたほうがいいかも。代わりに俺がホール出ておくよ」 「そうだな、じゃあワンテーブル片付けて来るから、その後飯に入るわ」  新人にレジを任せてテーブルの片付けに向かうと、隣のテーブルはハルの知り合いカップルだった。同級生だろうか、仲良さげに会話をしている。  聞くつもりはないのに皿を片付けていると二人の会話が耳に入ってくるので、BGMのように聞き流していた。 「でもさ、色々腑に落ちないいのよね。なんでクリスマス、しかも先輩の誕生日に別れを切り出したんだろう? 余計傷つくと思わない?」 「うーん、まあその辺はタイミングの問題だったんじゃないかと思うけど。あいつの性格から言って、他に好きな人が出来たって自覚した時点でもう駄目だったんじゃないの。無理って思ったらもう無理そうじゃん」  一瞬、布巾を滑らす手が止まる。この二人、ハルの話をしているんだろうか。 「でもその『好きな人が出来た』って理由、あれから二ヶ月たっても全然それっぽい行動も聞かないし、おかしくない? 大学内じゃなければバイト先かと思って来てみたけど、女の子の従業員自体見当たらないし……納得いかないなあ」 「はは、お前もほんとしつこいね。ハルと先輩が別れたのはもうしょうがないんだから、そっとしといてやろうぜ。掘り下げてもしょうがないじゃん」 「そうだけど……だってあの先輩が振られて、私の前で泣いたんだよ。よっぽどいい女じゃないと許せないって思うじゃない」  まあまあと宥める男の声が耳を通り抜けていく。俺はテーブルを拭き終わり、食器を盆に乗せてその場をあとにした。  年末の店長の言葉をふと思い出す。あの人はやっぱり鋭かった。 (店長、ビンゴだったな)  あの日、俺の前に姿を現した時には別れていたんだなと心の中で呟いて、その足で自分に会いに来たのかと思い立った。  そうだ、あいつは俺の顔を見に来たと、ちゃんと口にしていた。

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