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会いたいと願う気持ち 32

 バックヤードに戻ると、厨房から梶が出てきた。交代して飯に入れと言われたんだっけ。 「賄い飯はそこに置いといたから。あと新人くんがケーキの端崩しちゃったからさ、省吾食べるだろ。それも盆に乗っけといたよ」 「お、やった。サンキュー」  盆を見れば親子丼と角が少し崩れたショートケーキが置いてある。ケーキはほんの少しでも型崩れしたものは破棄される事になっていて、そんな時は大抵俺にまわってくる。他に好き好んで食べたがる奴がいないからなんだけど、俺としては良い役回りだ。  盆を持って休憩室へ向かいながら、ハルは誕生日だったなと思い出し、盆の上のケーキに視線を落とす。 (誕生日といったら、ケーキだな……)  ここのショートケーキは生クリームがちょうど良い甘さで好きなんだけど、今日はハルに譲ってやろう……などと考えながら、休憩室のドアをノックして直ぐにドアノブを回した。  部屋にはハルがひとりポツンと座っていて、盆の上に乗っている親子丼はまだ手がつけられていない。 「あ、省吾……お疲れ様」 「何だ、全然食ってねぇじゃねーか」  言いながらハルの正面に座り、自分の賄い飯をテーブルに置く。ハルは少し慌てたように壁時計を見上げた。 「ぼけっとしてた。もう交代の時間か」 「いや、この後ホールが忙しくなりそうだから先はいっとけって、厨房の奴と入れ替わった」 「そうか」  ハルはふっと気を緩めた様な表情で微笑んでから割り箸をパキンと割り、静かに丼を食べ始めた。  こいつって上品な食べ方するよな、と思いながら目の前の男を軽く眺め、自分も割り箸を割った。親子丼を食べる前にケーキの存在を思い出し、皿ごとズズっとハルの前に押しやってみる。 「これはお前にやる」  ハルは箸を持つ手を止めて、目の前に置かれたショートケーキを見つめ、それから俺の顔を見つめた。なんだこれはとでも言いたげな、不思議そうな顔をしている。 「俺は要らないよ?」 「……」  アッサリと拒否されて、そう来るかと言葉に詰まる。俺からの誕生日祝い(貰い物だけど)は、秒で切り捨てられた。

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