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会いたいと願う気持ち 33

 ガッカリしたところで「あ」と声が聞こえてきて、顔を上げれば何かに気づいた様な表情のハル。 「……誕生日っつーたらケーキだろ」  要らないならいいよと皿に手を伸ばすと、ハルの手に制された。 「ありがとう」  言いながら自分の手元に皿を引き寄せたハルの頬はひくひくしていて、こいつまさか笑いを堪えているんじゃないだろうなと見つめれば、目があった瞬間、堪えきれないとでも言うように「ふふっ」と小さな声を漏らした。今の会話の流れのどこに笑いどころがあったっていうんだ。俺は好きなものを手離したというのに。  食べ始めた親子丼を放置してフォークを手にしたハルの手元を見つめる。こいつ、主食より先にデザートを食べる気なのか。それもありなのか。ありかもしれない。 「半分こ、するか」  ハルの言葉に視線を上げれば、またもや頬がひくついている。何がツボに入ったのかさっぱりわからねぇが、半分にするならそれでも良いなと思い、うんと頷いた。  するとハルはフォークでケーキを二等分に切り分けながら、クックと肩を揺らして笑い始めた。 「なんだよ?」 「いや……省吾が好きなものを、くれたんだなと思って……」  言いながらまだ笑っているハルを軽く睨み、「誕生日って聞いたからな」と言い返せば、今度はため息をつくように「嬉しいな……」と言葉を漏らした。  半分になったケーキは一口で食べ切れる程の大きさになり、俺はそれを箸で掴み、口に放り込んだ。うん、甘い。美味い。もぐもぐと噛みしめつつ、正面のハルをみればまたぼやっとしている。今日のこいつは本当におかしいなと思いながら、ぼけっとしてると休憩終わるぞと声をかけた。  ホールには新人と梶の二人しかいないし、のんびり食ってる余裕はない。どんぶりを持ってガツガツとかっこみ始めたところで、ハルに名前を呼ばれた。 「省吾、……ありがとう」  ありがとうと言われ、ハテと考える。何についての「ありがとう」なんだろう。ケーキについてはさっき言われたしな。ぐるっと一周考えて、「誕生日を祝った」事についてだろうかと考えつく。律儀な奴だなと思いながら、思った事を口にした。 「何だよ改まって。そういうのは俺じゃなくて、親御さんに言えよ」 「え?」 「親御さんに感謝だろ、誕生日なんだから」

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