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会いたいと願う気持ち 45
「さんきゅ。なんかくれ」
思い付きで答えれば、ハルは笑いながら『ホールケーキをあげるよ』と言う。
ケーキはホールが好きだということも話したなと思い出し、本当にこいつは細かいこともよく覚えているもんだなと感心した。
「いらね」
『じゃあ何が欲しいんだ』
「はは、いらねーよ」
『なんだよ?』
「お前の電話でなんかテンション上がったし」
正直な気持ちだった。別に落ち込んでいたわけではないけれど、多分やっぱり疲れていたんだと思う。変わりないハルの声を聞いて、肩の力が抜けた気がする。くだらない話をしているだけで、楽しい。
俺は再びゴロリとフローリングの上に転がって、天井を見上げた。
『そっちは丸々GW連休?』
「暦通り。明日は一日片付け」
『誕生日に部屋の片づけか』
「うるせー。あ、でも夜は同期と飲むな。暇だし」
さっき林にラインを返した事を思い出した。俺は名古屋で、あいつは小牧だから、中間地点で待ち合わせるのが良いだろうな。
『暇だから?』
「ん? ああ、近くに同期も住んでてさ」
『断れ』
「は?」
聞き間違いかと聞き返した直後、更に驚くことを言い出した。
『暇で会うなら俺が行く』
「は? いつ」
『今』
「今!? 何言ってんのお前、寝るっつーの」
時計を見れば深夜0時半だ。いきなり何を言い出すのかと反論しても、住所を教えろと言ってきかない。
「引越してきたばかりだっていうのに、そんなのすぐにわかるかよ」
『契約書に書いてあるだろう』
契約書なんて……と言いかけて、テーブルの上に置きっぱなしの書類が目に入った。書類を開けば確かに住所が記載されている。強引なハルの口調に押されて思わず住所を読み上げると、今から行くと電話を切られた。
「……なんなの、あいつ」
スマホを手にしたまま、仰向けに倒れた。今から来るって、本気なのか。
(あの様子じゃ、マジだな……)
車でここまで、どのくらいかかるんだろう。
(あいつんところから名古屋まで……)
スマホで軽く検索しただけでも、四百キロは超えている。高速使って五時間の距離だと。
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