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会いたいと願う気持ち 46

(近くのコンビニに行くノリで出かける距離じゃねぇだろ……)  眺めていたスマホを腹の上に置き、両手と両足を大の字に広げて伸びをする。来るなんて言われたらぐーすか寝てるわけにもいかねえし、それ以前に眠気も飛んでしまった。  むくりと起き上がり、残っていた炭酸水を一気に飲み干してから、馴染みのない部屋をぐるりと見渡す。間取りは北側に玄関。入って廊下、両側にトイレと風呂場があって、扉を開けるとキッチン、ダイニングスペースにリビング、仕切りを挟んで七畳程の洋室があって、窓の向こうはベランダになっている。  窓はキッチン脇とリビングに一か所ずつ、それからベランダに続いている広いサッシ。角部屋なだけに窓も多い。南向きで日当たりも良好。長い間日陰の部屋で生きていたから、慣れるまでしばらくかかりそうだ。  がりがりと頭を掻き、カーテンも明日買いにいかねぇとな……と考えをまとめながら、手近の段ボールを開け始めた。テープを剥がそうとして、自分の指先が震えている事に気づき、手が止まる。  平静を装うとしたって、無理だ。身体はびびってる。ハルの気持ちが伝わってきて、動揺している。  クリスマスのあの夜の事を、俺が勝手になかった事にして、ハルはそれに付き合ってくれていただけで、本当はずっと、ハルの中では何ひとつ変わってはいなかったのかもしれない。 『好きだ』 『省吾が、好きだ』  本当は、何度も考えていた。俺を真っ直ぐに見つめるハルの瞳と繰り返された言葉は、あの夜から俺の心臓に突き刺さったまま、ずっと消えなかった。  会えなくなってから、ふとした瞬間にハルを思い出していた。今だって、そうだ。  どうしてるかなと思って……会いたいと、ハルが思ってくれたらいいなと思った。俺が、会いたいと思ったから。  二人で桜をみたあの夜も、そうだった。ハルが俺を忘れてしまうのは嫌だと思った。だから……。  誰かの事をこんな風に思うなんて初めてで、どうしたら良いのかわからない。 (でも……)  震える指先を消し潰すように、両手をぎゅうと握りしめた。痺れる程に握りしめた後、息を吐きながら手のひらを広げて、視線を落とす。  ハルが再び真っ直ぐな気持ちをぶつけてくるなら、俺も今思う限りの正直な気持ちをちゃんと伝えようと、心に決めた。

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