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会いたいと願う気持ち 47
◇◇◇
明け方の五時をまわる頃、スマートフォンに着信が入った。
『マンションの前』
「マジで来たのか」
ベランダ側の窓から建物向かいの通りを覗き見れば、外灯の脇に路駐している白い車が一台と、それに寄りかかるように立ち、マンションを見上げるハルの姿が見えた。
本当に来たなと思ったら、喉から乾いた笑いが漏れた。信じらんねぇと呟けば、電話の向こうで『見つけた』と声がする。
真夜中に五百キロの距離を走って、来るなり「見つけた」って、それだけ聞いたらめちゃこえぇストーカーじゃねぇか。
「……ほんとなんもねぇぞ。……あ、車ちゃんと駐車してこい、少し行った先の右側にパーキングあるから」
了解という言葉とともに通話が切れて、はあと大きく息を吐く。
(ほんとに来たな、あいつ)
東の空は薄っすらと明るく、太陽が昇り始めたのだとわかる。
日の出とともに現れるって、なんなんだ……。一睡もしないでとばしてきたんだろうか。
窓を開けると、ひんやりとした空気が肌に触れた。湿気もあるから、午前中にひと雨来るかもしれない。そっと窓を閉めてから、部屋の中も半そでシャツ一枚じゃ少し寒いなと気付いた。この数時間、どれだけぼやっとしていたんだろうか。
上に何か羽織ろうと、先程収納ケースにしまった服類を漁り始めた時、玄関のドアを控え目にノックする音が聞こえてきた。
玄関の鍵を外し、ゆっくりとドアを開けると、ハルが立っていた。
白いTシャツの上に青のシャツを羽織ったジーンズ姿。最後に見た顔と変わらない、琥珀色の瞳に鼻筋の通った、綺麗な顔だ。体型も変化なし。強いて言えば、髪が前より短くなってるのと、目の下に少しクマが出来たくらいか。
(会わなかったっていったって、ほんの一か月半なんだから、早々変わるわけないか)
なのに、もっと長い間会っていなかったように思えるのはなんでだろう。妙に懐かしくて、ほっとする。自然と頬が緩んでしまう。
「ほんと、信じらんねぇ奴」
玄関に引き入れて扉を閉めても、ハルはその場に突っ立ったままで、動こうとしない。ここまでかっ飛ばしてきて、到着するなり電池切れか。
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