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冬の夜をきみと 12
人待ち。
佐川さんは昨年の約束を、今年も。
「佐川さん、あの……」
考えもまとまらないまま出してしまった声に佐川さんは振り向き、ふっと笑顔を向けてくれた。
「居なくなるなんて、考えもしなかったんだ。伝えたい言葉もやりたい事も、山ほどあったのにさ、ふたりで過ごす時間はこれからいくらでもあるなんて、のん気に思ってたんだ。ずっと続くって、思い込んでた」
バカだろう、と佐川さんは笑った。
「まあ、それで、あいつに何にもしてやれなかったなって、後悔だけが残ってな」
過去形でない言葉。佐川さんは笑っているのに、泣いているように見える。
「……何にもなんて事、ないですよ」
「そうかな……はは、悪いな、寒いのに付き合わせたあげく、こんな話してな。するつもりなかったんだけどな」
雪降ってきたし、と空を見上げながら言う佐川さんを、俺は黙って見つめる事しか出来なかった。
「こんな事言ったら怒られるかも知れないけど……なんか、香取似てんだ。人見知りなとことか、慣れると笑ってくれるとことかさ」
だから気が緩んだのかもと笑う。
何ていったらいいのかうまく言葉にできないけれど、その『似てる』は、不快になるようなそれではなくて。
でもうまい言葉が浮かばなくて、俺は黙ったまま、イルミネーションの明かりをぼんやりと眺めた。
「雪降ってきたし、香取はもう帰ったほうがいい。つきあってくれてありがとな」
佐川さんはこのあとも、来てはくれない相手を待つんだろうか。
雪の降る中、独りきりで。
立ち上がれずじっとしていると、ぽんと頭に手が乗せられた。
「さっきも言ったけどな。会いたいと思える相手に会えるなら、迷わずとにかく会いに行ったらいいぞ」
「え、」
「相手の気持ちなんて二の次だ」
隣の佐川さんを見上げた時。
「……やっぱり居た」
正面から不満そうに呟く声が聞こえ顔を向けると、コートのフードを被った男が立っていた。
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