159 / 428

冬の夜をきみと 13

 少しつり目がちの大きな瞳で、真っ直ぐに前を見つめる若い男。その視線は隣の先輩に向けられている。 「アキラ」  呟く佐川さんの言葉に、ふたりが知り合いだと気付く。 「誰そいつ」  俺の事か。 「職場の後輩」  佐川さんの簡潔な紹介に、男はふぅんと納得したらしい。 「アキラこそ、何でいるんだ」 「迎えに来た」 「アキラが、俺をか」 「そーだよ。ユウキの亡霊待ってるアホな恭ちゃんを、迎えに来たんだよ」  アキラと呼ばれる男は真っ直ぐに佐川さんを見つめている。広場の景色も、隣の俺も目に入っていないという顔。鈍い俺にもなんとなく理解できた。  こいつはきっと、佐川さんの事。 「去年の約束にしがみついてるアンタなんて、ユウキだって愛想つかすぜ」 「……待っていたいんだ」  そう言った佐川さんの声は今にも消えてしまいそうな程に儚くて、俺なんかがここにいちゃいけないと思った。 「佐川さん」  振り返った佐川さんはいつもと変わらない表情で、優しい目をしている。俺は感謝を籠めて、佐川さんの瞳を見つめ返した。 「俺……会いたい人に、会いに行きます」  気付けば粉雪はしんしんと降り注ぎ、俺の視界を霞ませる。  その先で、佐川さんは微笑んでくれた。 「……そうか」  静かに響いた佐川さんの声は、触れた雪が溶けるほどに温かく、優しかった。

ともだちにシェアしよう!