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風邪とプリン(社会人四年目:十一月)1

 比較的早く上がれた金曜の夜。  帰宅すると玄関に省吾の靴を発見し、先に帰っているとわかったけどリビングに明かりはなく、省吾の姿は見当たらない。  出かけたのかと思いながら寝室に入り明かりをつけると、ベッドの中からお帰り、とけだる気な声が聞こえてくる。  既にベッドで布団に包まっている省吾を発見し、驚いて駆け寄った。 「ただいま。どうした、具合が悪いのか?」  ダルい…と呟きながら、真っ赤な顔して俺を見上げる。  まさかと額に手を当ててみれば、触れてすぐわかる程の高熱だった。  夜飯はどうすると尋ねると、喉痛いしいらねーと返された。  帰るなり布団に潜ったに違いない。見渡せばベッドの脇にスーツが脱ぎ捨られたままだ。かろうじて寝巻きに着替えて倒れこんだのだとわかる。  救急箱から体温計を取り出し省吾の脇に挿してみると、数秒も立たずにピピっと電子音が鳴った。 「三十八度五分。薬を飲んで寝ないと。お粥作ろうか」  子供みたいに嫌々と首を振る。けれど、薬を飲むなら少しでも胃に物をいれておきたい。 「じゃあ、甘いものは? コンビニで何か買ってくるから」 「……」 「なに?」  じっと顔を見つめると、遠慮がちな声で、プリンと答えた。 「わかった、プリンね。買ってくるから。それまで寝ててな」  省吾の髪を軽く撫でてから、再び外へ出た。  コンビニまでは徒歩で数分。コートのポケットに両手を突っ込み、静かな夜道を足早に歩く。  省吾が風邪をひくなんて珍しい。職場でうつされたのだろうか。  最近ずっと深夜帰宅だったし、疲れがたまってたんだろうなと思い返す。

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