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愛はどうだ(社会人四年目:十一月下旬) 1
二十一時を回った頃。
「香取、上がりか」
書類作成を切りのいい所で終わらせパソコンの電源を落とした時、タイミング良く背後から声をかけられた。
先輩の伊勢さんだ。黒のコートを羽織りながらほんの少し口角を引き上げて微笑む。その表情に、思わず背筋が伸びる。
(この人、ホントなにしても決まるよなあ)
いつもはハチ公みたいに張り付いてる青木が今日は見当たらない。
「青木と姉さん達が先に飲んでるから、お前も行かないか」
姉さん達、といったら美人姉さんと共に綾香ミツルも居るはずだ。
以前ハルから地元仲間なのだと聞かされてから、どうにも苦手意識が湧いてしまう。ハルと俺の関係は知らないはずだけど、人生いつどこでどんな事がおこるかわからない。要注意人物だ。
「や、今日は帰っときます」
「そうか」
しつこくて面倒な人間が多いこの業界で、アッサリ帰してくれる伊勢さんは毎度ドライで有り難い。
やっぱり男はあの位余裕がないと駄目だよな。
そんな事を考えながら駅までの短い道程を歩いていると、内ポケットのスマホに着信が入った。
ハルかと思い取り出すと、着信相手は母親の文字。
そういやもうすぐ年末だし、正月帰って来るのかって話だろうな。
「もしもし」
『省吾、お母さんだけど。あんたちっとも連絡して来ないで、生きてるの?』
「生きてるよ」
生きてなきゃ今喋ってねぇし。
『そ、よかった。ちゃんと毎日ご飯は食べてる? 自炊はしてるの?』
まあ分担で、と言いかけ、そういや引っ越した事を言ってなかったなと思い出す。
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