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愛はどうだ 5
「うるせー」
思わずついて出た言葉に、はぁ!?と女の怒りの矛先がこちらに向いた。
「見てたけど。周りに押されてオッサンの鞄がアンタのケツに刺さっただけ。こんだけ混んでるし、そこは許してやんなよ」
まんまを口にした俺も悪いが、それを聞いた周りの乗客からプッと吹き出す声が聞こえた。
言い過ぎたとは思わないし反省もしねぇけど、停車するなり湯気が出そうな位真っ赤な顔して降りていった女の後ろ姿に、ちょっとゴメンと心の中で呟いておいた。
とはいえ電車が動き出した頃には俺の中でその出来事は終了し、晩飯どうすっかなとぼんやり考える。
ハルからは連絡ないし、今夜も遅いんだろうな。
面倒だから何か買って帰るか。
手摺りに捕まったまま少し寝て、降車駅に着く頃に目を覚まし、わらわらと出口へ向かう人波に飲まれながら階段を登り始めた所で、背後から声をかけられた。
「あの……」
ギクリとして恐る恐る振り返る。
この駅で知り合いに会うとか勘弁。
と思ったら、さっきのオッサン。
降車駅一緒だったのか。
「はい?」
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