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愛はどうだ 6
「先程はその、ありがとうございました」
丁寧に頭をさげられても何か別に。
何もしてねーしとりあえず階段だし、と思い足を進めながら流し気味に答える。
「見えたから言っただけなんで」
もういいだろうと思いきや、俺の後をついてくるオッサン。
「いえ、助かりました、とても嬉しかったです」
はぁ。
まいっけど。
「お礼に珈琲を一杯、ご馳走させてください」
思わず階段でつんのめりそうになった。
何だこのオッサン。天然か?
どこの世にいきなり知らねぇオッサンとこんな時間から珈琲飲み交わす若者がいると思ってんだ。
「や、帰るし全然。お気になさらず、じゃっ」
ビシっと左手で挨拶し改札をでた俺になおも食い下がる謎のオッサン。恐えぇ。
面倒臭ぇなあ。
俺はため息をひとつつき、じゃあ、と構内の一角を指差した。
「あそこ、立ちのみバーありますから、そこで一杯いただけるなら」
「ああ、喜んで!」
パアッと広がったその笑顔に、ふと見覚えがあるような気がした。
気のせいか。
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