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ホワイトクリスマス 3
◇◇◇
十二月二十四日。
時刻はもうすぐ二十時をまわる。俺はスマホを耳に当てながら、頭を掻いた。
「だからゴメンて。しょうがねぇだろ」
電話の向こうでぶぅぶぅ言ってるのはハル。
クリスマス展示会も無事に終了し、さて帰ろうとした所で、万年独身の面倒臭い先輩に捕まってしまった。
既婚連中が勇み足で退社していく中、「彼女のいない独身男」という立場の俺が標的にされるのは必然で、酒に付き合えと腕を捕まれ現在に至る。
『先輩だろうが何だろうが先約は俺だ。断れ』
一緒に住んでるんだし、先約もくそもないだろうと心の中で舌打ちしながらも、とりあえずここは謝っておく。
「職場の付き合いだからさ……なるべく早く帰るよ」
『こんな日に誘いをかけてくるなんて、そいつは省吾の事を狙っているのかもしれない……!』
またそんな妄想か。
(うぜぇなあ、あるわけねーだろ……)
こいつの脳内はどうなってるんだ。俺はお姫様にでも変換されているのか。どこからみても地味で平凡で愛想のない男だぞ。
「したら逃げるよ。んじゃ帰る時連絡するから」
『あっ、省』
一方的に電話を切り席に戻ると、既にウイスキーのボトルと炭酸水がテーブルに用意されていた。
「香取〜、便所長いぞ。頼んでおいた」
嬉々揚々とした表情の先輩に軽くうんざりしながらも、まあたまにはしょうがないかと自分に言い聞かせる。デカイ図体の先輩でも、人恋しくなる夜もあるのだろう。
「佐藤さん、ちょい濃い目が好きですよね」
「うんまあな。お、香取が作ってくれるのか、悪いな」
さっさと酔っ払っていただいて解散しよう。
などと目論みながら、笑顔で答えた。
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