206 / 428

ホワイトクリスマス 5

 恐怖から目を逸らし、とりあえず青木に電話をかけると三コールで電話にでた。こちらはやけに上機嫌だ。 『どしたの香取、こんな時間に。ハルと一緒?』 「ちげぇよ。佐藤さんが潰れたからタクシー乗ってるとこ。住所教えろ」 『マジで? クリスマスなのに佐藤さんに捕まっちゃったの』  カラカラと笑うアホ木を今すぐ殴りたい。 「煩い、お前は何やってんだよ」 『わー、聞いちゃう? なんとっ、万優さんとクリスマスデートだよー!』  背後から余計な事を言うなと声が聞こえる。  万優さんといったら、所内イチの美人姉さん。青木が入社当時から憧れ続け早四年という、高嶺の花だ。  気でも触れたのか姉さん。 『佐藤さんちね、北区役所前の茶色いマンションだよ。何号室だったかなあ』  十分だ。  お礼もそこそこに電話を切り、運転手に告げてからやっと息をつきシートに身体を沈めた。  スマホの画面を開いて再び着信履歴に目を落とし、ため息をつく。 (鍋作って、待っててくれたんだよなあ……)  あいつ、飯食ったかな。  まさか待ってないよな。  申し訳ない気持ちが募り、早く家に帰りたくて堪らなくなってきた。  佐藤さんをマンションに投げたら、ダッシュで駅に走ろう。

ともだちにシェアしよう!