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ホワイトクリスマス 5
恐怖から目を逸らし、とりあえず青木に電話をかけると三コールで電話にでた。こちらはやけに上機嫌だ。
『どしたの香取、こんな時間に。ハルと一緒?』
「ちげぇよ。佐藤さんが潰れたからタクシー乗ってるとこ。住所教えろ」
『マジで? クリスマスなのに佐藤さんに捕まっちゃったの』
カラカラと笑うアホ木を今すぐ殴りたい。
「煩い、お前は何やってんだよ」
『わー、聞いちゃう? なんとっ、万優さんとクリスマスデートだよー!』
背後から余計な事を言うなと声が聞こえる。
万優さんといったら、所内イチの美人姉さん。青木が入社当時から憧れ続け早四年という、高嶺の花だ。
気でも触れたのか姉さん。
『佐藤さんちね、北区役所前の茶色いマンションだよ。何号室だったかなあ』
十分だ。
お礼もそこそこに電話を切り、運転手に告げてからやっと息をつきシートに身体を沈めた。
スマホの画面を開いて再び着信履歴に目を落とし、ため息をつく。
(鍋作って、待っててくれたんだよなあ……)
あいつ、飯食ったかな。
まさか待ってないよな。
申し訳ない気持ちが募り、早く家に帰りたくて堪らなくなってきた。
佐藤さんをマンションに投げたら、ダッシュで駅に走ろう。
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