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ホワイトクリスマス 7

「あっちぃ……」  ふと腕時計が目に入り、終電まで時間がない事に気付いて慌てた。電車がなくなったら本気で笑えない。 「佐藤さん俺帰りますから、ちゃんと布団で寝てくださいね」  こうしちゃいられないと立ち上がりかけたその時、バカみたいにデカイ手に腕を掴まれ、体勢を崩して背中から倒れ込んだ。 「ってぇ……」  呻きながらも起き上がろうとした俺の上に岩が、じゃない佐藤さんがのしかかってきた。 「げっ! 重っ」  佐藤さんの顔が思い切り近付いてきて、俺の顔を凝視する。目が据わってるし、とにかく近い。近すぎる。ぞぞぞと背筋に悪寒が走った。 「可愛いな……何で俺んちにいるんだ」 「いや俺香取ですけど!」 「香取……可愛い」  違うーーーー!  余りの恐怖に声も出ず固まった俺の首筋に、岩がガブリと噛み付いてきた。 「痛ぇっ! ちょ、佐藤さん!」  なんつープレイだよこいつ!  何とか抜け出そうともがいたその時、鎖骨にちゅうぅと吸い付かれ、ピリリと痛みが走った。 (あ……)  んな跡つけたら。 (ハルに殺される) 「ぐぎぎ……ど、っけぇ!!」  渾身の力を籠めて突き飛ばすと、巨体はそのまま壁にぶつかり、うっと呻いて床へと倒れ込んだ。 「はぁ、はぁ……」  汗だくで起き上がり襟を正しながら、これが火事場の馬鹿力かなどと冷静に考えつつ。  既にいびきをかいている佐藤さんをそのままに、俺は玄関を飛び出した。  駅まではそう遠くはないはずだと、大通りをひた走る。

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