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ホワイトクリスマス 8
大通りの突き当たりに駅が見えてきた。
信号も無視して走り続け、人もまばらな駅中へと駆け込む。
改札口に飛び込むより先に目に飛び込んだ電光掲示板には、俺が乗るべき上り方面の電車は終了したとの文字が無情にも流れていた。
「……マジか……」
がっくりと肩を落とす俺。
(やられた……)
参った。
どっと疲れが押し寄せた身体を引きずるように歩いてロータリーへと戻り、空いているベンチに腰掛けて大きく息を吐いた。
「こっからタクシーだと幾らかかるかな……」
歩いたら……何時になるかな。
巨岩に噛み付かれ吸い付かれ汗だくになるわ、終電いかれるわ、ああそういや飲み代も俺が払ってるじゃねぇか。
ハル、怒ってんだろうな。
「いいことねぇな、クリスマス」
ロータリーの中央に立つ木々に飾られたイルミネーションの明かりを眺めながら、はあとため息をつく。
(さっきはマジで恐かった……男に襲われるって、すげえ恐怖だな)
先程の出来事を思い出し、ぶるりと身体を震わす。
そういやハルにも一番始めは押し倒されたなと昔を思い出し、ふっと笑いが込み上げた。
そうだ、あの時。
力で捩じ伏せられて、すげぇ負けた気がして、めちゃくちゃムカついて。
……でも。
(嫌じゃ、なかったんだよな)
ハルにキスをされた事は、驚いたしムカついたけど……嫌じゃなかった。
ムカつくから言ってないけど。
俺の中でハルだけは本当に……特別なんだな。
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