221 / 428

愛のしるし 4

◇◇◇ 「おー省吾久々! こっちこっち」  地元馴染みの居酒屋に入ると、座敷には懐かしい顔ぶれの団体様が既に宴会を始めていた。空いている席に座るなりグラスを持たされ、ビールを注がれる。幼馴染の梁瀬だ。高校卒業後は地元の工業団地に就職したから、完全な地元住民のひとり。昔も今もひょろりと細長い体型で、人懐こさも相変わらずだ。 「さんきゅ」 「省吾~、明けましておめでとさん! 相変わらずいい顔してんな。チューしていい?」 「アホか。お前もう酔っ払ってんの?」  相変わらずバカな友人に笑い、肩の力が抜けていく。 「あー、先発組は三時から宴会してるしな。あ、ほらボスが呼んでるぞ」  座敷奥に目を向けると、こっちへ来いと派手なボディランゲージをしている男が見えた。 「あー、言ってくる」  ボスというのは幼なじみの晃。実家のアパートが隣同士、お互い母子家庭だったから母親同士も仲が良くて、二つ年上の晃はなんだかんだと俺の面倒をよく見てくれた。地元で晃を知らない奴は居ない位、喧嘩ばかりしてるような奴だったけれど、大人になって大分丸くなったと思う。怒らせなければ気の良い兄貴分だ。 「晃、久々。明けましておめでとう」 「マジで久々じゃねぇか。お年賀はないのか」 「ねぇよンなもん」  乾杯し、お互い一気にグラスを空ける。 「省吾、女とうまくいってんのか」 「女? いつの話だよ。いねぇし」  グラスにビールを注ぎながら晃の言葉に笑って返すと、くしゃりと頭を撫でられた。 「嘘だね。へえ、隠したいほどいい女なのか」 「なんだそりゃ、マジでいねぇし、いらねぇし」  すると晃は面白くないといった表情で、俺の顔をじっと見つめた。会うなり突っかかられて、意味がわからない。変な噂でも流れているんだろうか。

ともだちにシェアしよう!