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愛のしるし 4
◇◇◇
「おー省吾久々! こっちこっち」
地元馴染みの居酒屋に入ると、座敷には懐かしい顔ぶれの団体様が既に宴会を始めていた。空いている席に座るなりグラスを持たされ、ビールを注がれる。幼馴染の梁瀬だ。高校卒業後は地元の工業団地に就職したから、完全な地元住民のひとり。昔も今もひょろりと細長い体型で、人懐こさも相変わらずだ。
「さんきゅ」
「省吾~、明けましておめでとさん! 相変わらずいい顔してんな。チューしていい?」
「アホか。お前もう酔っ払ってんの?」
相変わらずバカな友人に笑い、肩の力が抜けていく。
「あー、先発組は三時から宴会してるしな。あ、ほらボスが呼んでるぞ」
座敷奥に目を向けると、こっちへ来いと派手なボディランゲージをしている男が見えた。
「あー、言ってくる」
ボスというのは幼なじみの晃。実家のアパートが隣同士、お互い母子家庭だったから母親同士も仲が良くて、二つ年上の晃はなんだかんだと俺の面倒をよく見てくれた。地元で晃を知らない奴は居ない位、喧嘩ばかりしてるような奴だったけれど、大人になって大分丸くなったと思う。怒らせなければ気の良い兄貴分だ。
「晃、久々。明けましておめでとう」
「マジで久々じゃねぇか。お年賀はないのか」
「ねぇよンなもん」
乾杯し、お互い一気にグラスを空ける。
「省吾、女とうまくいってんのか」
「女? いつの話だよ。いねぇし」
グラスにビールを注ぎながら晃の言葉に笑って返すと、くしゃりと頭を撫でられた。
「嘘だね。へえ、隠したいほどいい女なのか」
「なんだそりゃ、マジでいねぇし、いらねぇし」
すると晃は面白くないといった表情で、俺の顔をじっと見つめた。会うなり突っかかられて、意味がわからない。変な噂でも流れているんだろうか。
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