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愛のしるし 10
振り上げた俺の腕を掴み、ニヤけながら完治が言う。
「キスマーク。俺の彼女が前やってた。うっ血症状だから、揉んで血流よくすれば早く消えるらしいぜ」
「今夜までに消したいんだよ」
「ははっ、そりゃもうコンシーラーとか塗るしかねえんじゃん。彼女に持ってるか聞いてやるよ」
そんなその場しのぎじゃ、速攻バレる。はああと大きなため息を吐く俺を物珍しそうに見る完治。
「やっぱそれ、彼女じゃなくて晃につけられたんだな。やべぇウケる。酒のネタにしていい?」
やっぱこいつ殴っとこ、と顔を上げた時、外から完治を呼ぶ女の声が聞こえてきた。
「何だよ完治、今回彼女連れてきたのか」
「あ、そうそう。紹介するし、行こうぜ」
鼻歌まじりで上機嫌な完治の後に続き、襟で跡を隠しながら俺もトイレを出ようとしたところでスマホに着信が入り、立ち止まる。ハルだ。
「はいよ」
『省吾、楽しんでる?』
「さっき着いたばっかだよ」
『そうか、俺はこれから帰るけど、ゆっくりしてきてな』
うわ、わざわざ自分の帰宅時間告げといてゆっくりしてこいとか、早く帰って来いと遠まわしに言ってるようなもんじゃねぇか。
「てかお前、わざとやっただろ首の跡!」
『はは、でも正月中には消えるから大丈夫だよ』
家出る時に気付かなかったのかと笑うハル。ふざけんな。
「あーもういいわ……じゃあな」
『飲みすぎて羽目はずして変な奴に捕まったりしないようにね』
最後の一言が恐ろしい。早々に電話を切った後、再び大きなため息をついた。冗談の通じないハルを想像しただけで、ゾクゾクと悪寒が走る。
状況を説明したところで刑は免れないだろうけれど、せめて早く帰って機嫌をとるしかない。
「あ、省吾。早く戻れよ、晃が呼んでたぞ」
今度は柳瀬が現れ、すれ違いざまに声をかけてトイレの中へと消えていった。
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