230 / 428
愛のしるし 13
「悪かった。帰るわ」
「終電までまだあるし、起きたなら少し付き合えよ」
グラスを持ち上げた晃には申し訳ないが、ハルの顔が頭に浮かび、首を振った。
「や、今日はもう帰る」
いつの間にやら掛けられた布団をめくり上げベッドから降りようとした時、晃がぽつりと呟くように言った。
「誰か待ってるのか? あっちで」
じっと見つめられ、言葉に詰まった。晃の視線は力強くて、本気で睨まれたら大抵の奴は先に目を逸らす。俺も例外じゃない。
「あー……まあ、そうだな」
「何でさっき隠したんだよ」
昼間の話をぶり返されて、はあと息を吐く。なんでそんな事にこだわるんだ。一番に報告しなかった事がそんなにカンに触るのか。面倒くさいったらない。
「周りに言いたくなかったのか」
「あー、そうだな」
煩い。ほっといてほしい。
「昼間も聞いたけど、お前ノンケだよな?」
「なんだよそれ。変なことこだわってんな、なんなの?」
「男には興味なかったろ、昔から」
何が言いたいんだよ。
そんな目で見るな。
なんなんだよ。
勝手だろ。
煩い。
「そんなんどーでもいいわ。晃、お前何が言いたいの?」
「省吾、」
「知らねぇよ、男とか女とか煩せぇ。関係ねぇよ、俺が今好きな奴は男だ、一緒に暮らしてる。でも俺はそれを周りに言ってねぇよ。悪いか、でもそんなんお前に関係ねぇだろ」
言い切るより先に、晃の右手に喉を掴まれた。力任せにベッドに沈めらて、喉から呻き声が漏れる。
「っが……あき……」
両手で剥がそうとしても晃の腕はぴくりとも動かず、締め付ける指は俺の首元に食い込む。
息が出来ずにもがく俺を見下ろす晃の目に表情はなく、それが晃の『怒り』だとわかる。
俺の腹に跨った晃は俺の首根を押さえ付けたまま、もう片方の手で俺の髪を梳くように撫でつけ、指先に髪を絡めた。
晃を見上げる俺の額からじわじわと汗が滲み、玉露となってこぼれ落ちる。
苦しい。息が出来ない。
「関係? あるに決まってんだろ省吾……ずっとお前を大事にしてきたのは俺だぞ」
ともだちにシェアしよう!