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愛のしるし 17
「はっ……あ、あ」
俺の中で動いてる指も、部屋に響く水音も、全部、嘘だ。
「そいつにはいつも、そんな顔見せてんのか」
ジュプジュプと囀る音が耳に響く。腹の中をかき回される感覚に、気がおかしくなる。こんなのは嘘だ。
「こんな簡単に解れるほどに、淫乱になりやがって……相手はどこの誰だ、教えろよ。ぶちころす」
「や……っんっ」
緩んだ俺の口内に晃の舌が押し込まれ、めちゃくちゃに掻き回されて、言葉を発する事すら許して貰えない。唾液がこぼれ、首筋へと流れ落ちる。
「誰よりもお前を愛してるのは俺だ、俺だ……省吾」
自分の中を押し広げられ、さらに加わった指に攻め立てられ、全身が痺れていく。腰を引き上げられて、背中に圧がかかる。うめき声をあげても晃の動きは止まらない。ズルリと異物感が抜けて、かわりに別の何かが入口にあてがわれた感覚に気づき、残りの力で足をばたつかせて抵抗しても、晃の動きは止まらない。
息が出来ない。
苦しい。
こんなのは嫌だ。
こんなのは違う。
「お前は俺のものだ、昔から」
「ちがっ……」
『省吾は俺のものだよ』
何度も何度も聞かされてきた。
その言葉を口にしていいのは、ひとりだけだ。
「ハ、ルっ……」
名前を口にした瞬間、涙が溢れだした。
ハル。ハル。ハル。
ハルじゃなきゃ、いやだ。
「ハル……」
涙でもうなにも見えない。滲んだ世界で、ハルの姿だけを探した。
揺れる視界の中、唇が重なる感覚に身体が硬直する。
でもさっきまでとは違う。
ゆっくりと食すような……柔らかなキス。
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