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愛のしるし 20
◇◇◇
急げば終電には間に合う時間だった。
でも、乗れなかった。
今の自分をハルに見られたくなかった。
終電に乗り遅れて実家に泊まるという連絡と謝罪と、明日朝イチで帰る事をラインで送って直ぐに電話が来たけれど、無視して鳴り止むのを待った。
久々の実家は相変わらずの小さなアパートで、その狭さが妙に落ち着く。玄関を上がり風呂場へ直行した。シャツと下着を洗濯機へ放り込み、ジーンズは風呂場の隅に投げ捨てて、直ぐに頭からシャワーを浴びた。冷水に身体が震えたけれど、その冷たさを今は感じていたかった。
やがて温水に変わったシャワーの温かさに、じわりと目の奥が熱くなる。このままずっと浴び続けたら、嫌なもの全部流れて、きれいに消えてくれるだろうか。
ハルには知られたくない。
怒るだろうな。
嫌われるかな。
傷つくだろうな。
隅のジーンズを拾い上げ、洗濯板が見当たらないから手でガシガシと洗い始めた。ジーンズは洗うな、洗うなら洗濯板で洗えと言ったのは晃だったなと、昔の事を思い出したら少し笑えた。笑ったら涙が出てきた。
ああ、こんな俺なんてハルには絶対に見られたくない。
そう思ったらボロボロと涙が溢れ出して止まらなくなった。
「うっ……うっ……」
なのに。
ハルに会いたくてたまらない。
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