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愛のしるし 23

「ハルからだろ、今の」 「お前がハルとか言うな、馴れ馴れしいわ」 「じゃあなんて言えばいいんだよ」 「そういう問題じゃねぇ、口にするな」  ふと晃の手が俺の顔に伸び、気付いた瞬間それを叩き落とした。晃は叩かれた手の甲をさすりながら、小さく息を吐く。 「ひでぇな」 「俺はもうお前を信用してない。触るな」 「お前がここに越してきた7歳の頃からずっと、お前の面倒を見てきたのに」 「そんなお前に無理矢理掘られかけてぶっちゃけ俺はもう人間不信だ」 「悪かった」 「簡単に言うな」 「じゃあどう言えばいいんだ」 「んなこと俺に聞くな」  沈黙。  晃は開きかけた口を閉じ、かわりにマグを口にあて、ずずずと珈琲を啜った。つられて俺も珈琲を口に含み、ごくりと飲み込む。  晃がゴトリとマグを置いたその音にビクリと肩を揺らすと、泣きそうな顔で俺を見つめた。  なんだよばか、泣きたいのはこっちだ。今こうしているだけでも勝手に身体が震えるんだよ。こんな自分が信じられねぇ、まるで弱いガキみてぇだ。 「……カッとなってあんな事して、本当に悪かった」 「……」 「ごめんな省吾……裏切ったのは、俺の方だ」 「……」 「お前が大事で大事で……ずっと大事にしてきたのに、土壇場で自分の欲に負けて、それを無理矢理押し付けた」  晃の指先が俺の頬に触れた。  でも、今度は振り払わなかった。  身体は震えたけど、でも。

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