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AAA 5
いらねー心配。
根拠のない俺の言葉は、ハルの表情を和らげた。
根拠は、ねぇけど。
「俺はお前が俺から離れても、しょうがねぇと思うだけかもしんね」
「何だよそれ」
明らかに不満げな表情で俺を睨むこいつを可愛いな…と素直に思えるようになったのは、いつからだろう。
「お前がいなくなっても俺の生活はあるし、仕事も責任もある」
けれど。
「……お前がいないと、ほっといたら死ぬかもしんね」
「……何だよ、それ」
「わかんね。でもそれは嫌だから、お前から離れる気はねぇよ」
ハルの鎖骨に唇を当てると、ハルは俺の髪を撫でた。
「省吾は時々難しい事を言う。ねえ、それは俺を好きで好きで仕方がないって事?」
そういえば、最後にちゃんと口で言ったのはいつだろう。思い出せない程口にしていない自分に改めて気付く。
「……好きだよ、すげぇ、好きだ」
俺の髪を撫でていたハルの手が止まる。
「でも、わかんねーけど、ちがう。俺はお前と暮らす事を決めた時に、何があってもお前から離れないと決めたんだ」
言ってる自分が恥ずかしくて、俺は額をハルの胸に押し当てた。
「恋とか、愛とか……そんなん全部とっぱらっても、俺はお前と一緒にいる」
それは根拠のない確信。
「だからお前のそれはいらねー心配。面倒くせぇからすんな」
そこまで言って目線を上げると、今にも泣きそうなハルがいた。
俺はぎょっとしたけれど、ああ、可愛いな……と思った。
俺を殺すなんて言ってるお前より、ずっと。
その顔のほうが、愛しい。
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