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幸せになる方法 3
「二月三日は恵方巻を作ろうか」
「あの太巻? 簡単に作れんの」
「作れるよ、日曜だし一緒に作ろう」
「ふぅん、まいっけど」
ハルはご機嫌な表情で具は何がいいかなとあれこれ構想を練り始め、それを眺めながら再びグラスにに口をつけた時、リビングのコタツの上に置かれた俺のスマホに着信が入った。
「誰?」
「青木からのメール……げ」
「なに、どうしたの」
「職場で撮られた写真が送られてきた。いらねー」
思わず苦い声を漏らした俺をハルは見逃さない。すかさず立ち上がり、俺の背後にまわりスマホの画面を覗き込む。
赤鬼のお面を頭に乗せた苦い顔の俺と、俺の肩に腕を回し青鬼のお面を頭に乗せた満面の笑みの青木。完全にコントじゃねぇか。
速攻削除しようとした矢先、ハルにスマホを取り上げられた。
「何だよ、アホな写真だろ。消すから返せ」
「……青木、腹立つなあ。図々しいことこの上ない」
俺以上に苦虫を噛み潰したような表情のハル。何が気にくわないのかと思えば、青木が俺の肩に腕を回していることが許せないようだ。アホか。腹立たしいだの図々しいだのと文句を言われて、笑顔の青木が不憫に思えてくる。
「何でこんな写真撮ってるの」
「職場の女達の要望を押し付けられて撮られただけだ」
食べ物に釣られた事は内緒にしておく。
「省吾を巻き込むなんて、とんでもない女子社員達だなあ……まあでも省吾を赤鬼に見立てる辺りはセンスが良いね」
「お前も大概アホだな……」
「このお面ないの?」
「あるわけねーだろ、何でだよ」
「赤鬼省吾を単品で撮り直して、俺の省吾コレクションアルバムに加えたい」
「そのアルバム見せろ、全項目削除する」
「酷い事を言うな、俺の宝物だよ」
スマホを取り返しハルを一瞥すると、省吾の全部を俺のものにしないと気がすまないんだとサラリといわれた。
いやだからってお面被った俺とかいらねぇだろ。やっぱりこいつアホだ。
とはいえ、俺が作った鍋を美味そうに食べるハルを見ているだけで自然と顔が緩んでしまう俺も、まあ大概脳みそ沸いてんな……と自覚してしまった事は秘密にしておこう。
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