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スイートバレンタイン 5

「ハル、ちょ、やめ……」  スーツのシワなんて気にしてられるか。  ネクタイを剥ぎ取り、シャツのボタンを外してはだけた首筋に吸い付くと、省吾は更に抵抗した。 「離せって、こ」 「今日はバレンタインだ」 「知るかっ、んじゃなんでお前はあんなとこでサワケースケとっ」  言いかけ口を閉じ、後悔の表情を浮かべる省吾。  やっぱり気にしていた。 「省吾」 「あいつはお前の事、好きとか言うだろ……うざいし」 「うん、ゴメン、配慮が足りなかった」 「違う、関係ねぇよ、お前があいつと一緒にいたって別に、同期だし、ふつーだろ」 「別に一緒に居る必要ないから」 「何でもいい、ただ単に……俺が見てなんかムカついただけだし、お前には関係ない」  ふて腐れた表情でそっぽを向いた省吾をまじまじと見つめているうちに、じわじわと笑いが込み上げてきた。 「省吾……それって、やきもち」 「知るか、放っとけ」 「やきもちだよ、省吾」  真っ赤な顔で睨みつけられても、愛しいと思うばかりで。 「ごめん……」  嫌がる省吾をぎゅうと抱きしめた。嬉しいと感じてしまう俺は、優しくないかな。でも駄目だ、嬉しい。 「お腹はすいてない?」 「まあ減ってない」 「ケーキを買ってきた。ワンホール」 「食う」  買ってきておいて良かった。  烏の行水並の速さでシャワーを浴びた省吾が部屋着に着替えリビングへ戻ったところで、冷蔵庫から冷えたビールをグラスに注ぐ。ケーキは切らずに箱ごとコタツの上へ。  乾杯するなり、ワンホールに潔くフォークを突き刺して大きな一口を頬張る省吾は確かにガキんちょだなと、小さな笑いがこぼれた。

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