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スイートバレンタイン 8

◇◇◇  身体を重ねながら、同じ言葉を繰り返す。  『名前を、呼んで』  『好きだと言って』  何度名前を呼ばれても、何度好きだと言われても、ふと湧き上がる不安に押し潰されそうになる。  苦しそうに声をあげるその姿も愛しくて、もっと責めてしまいたくなる。  泣くほどに掻き乱したくなる。  何処にもいけないように、俺の傍から、離れられないように。傷付けたくないのに、傷付けて縛りつけたくなる。信じているのに、怖くなる。  幸せなのに。幸せが不安でたまらなくなる。 「省吾……」  こんな時、省吾はいつも同じ表情で俺を見つめる。省吾の大きな黒い瞳が揺れる。困らせたくないのに、優しくしたいのに、大事にしたいのに。もっと、もっと。 「離れないで……」  好きで好きで、気が狂いそうになる。 (いや……)  時々湧き上がる狂気に満ちた感情は、確かに俺の一部なのだ。

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