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冬の空(社会人四年目:冬)1

 土曜日の夕方。  こたつでゴロゴロしていた所を仕事から帰ってきたハルにひっぱりだされた俺はそのまま車に押し込まれ、今は助手席から暮れてゆく陽を眺めている。 「で、どこに行くんだよ」 「内緒」  といわれても、まあ道路標示を見ていればどこへ向かっているのかは大体わかる。どうやら山梨方面を目指しているようだ。また俺の苦手な寒い場所へ連れて行かれるのか。  目的地に到着した頃にはすっかり日も暮れて、駐車場に車を止め降りて空を仰げば、真っ黒な夜空と星が広がっていた。 「湖上花火大会か」  会場付近には出店も並び、人混みでごったがえしている。 「ここは買い物するだけだよ。何を買おうか」 「目的地はここじゃないのか」 「うん、お祭り雰囲気欲しいから、出店で買い物だけしていこう」  はしゃいでんなあ。さっきまで仕事してたくせに、疲れてないのかこいつは。 「んじゃたこ焼きと、鳥もつ」 「いいね」  ふたりでたこ焼きと鳥もつと焼きそば、あと飲み物をいくつか購入し車に戻り、ハルはさらに山の方へと車を走らせた。  やがて車は山道を登った先の小さな駐車場に止まった。周りを見渡せば少し離れた場所にニ台ほど車が駐車している程度の、寂れた空間だ。 「到着。寒いから始まるまで車にいようか」 「ここから花火が見れるのか?」 「多分」 「適当だな」 「はい、省吾はホットワイン。これ飲んだら外に出ても寒くないから」  受け取ればあったかい小瓶。ぬくい。 「サンキュ。ハルは?」 「俺は運転手だから、珈琲」  出かける時はいつも運転手に徹してくれる。いい奴だ。  んじゃ遠慮なく、と乾杯し、ゴクンとひとくち喉に通せば、身体がポカポカと温まってきた。

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