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冬の空 2
「にしてもなんで急に今日なんだよ?」
「開催してるって昼間知ったから」
「まさかそれで仕事を途中で投げてきたとかじゃないだろうな」
「そんなことはしないよ。この穴場は、圭介が教えてくれたんだ」
「サワケースケ? マジか、あいつその辺にいるんじゃ」
「大丈夫だよ、残ってる仕事を預けてきたから」
「お前それ、押し付けって日本語じゃねぇの……」
「俺、冬の花火見たことないんだ」
俺の突っ込みは完全無視して目をキラキラさせながら言葉を続けるハル。
「だから省吾と一緒に見たくて」
缶珈琲を口に当て、嬉しそうに微笑むハルを見ていると、なんだかこっちまで頬が緩む。
「そーかよ、ついでに言うと俺も見た事ねぇぞ」
「冬の花火?」
「うん、夏しかねぇな」
思ったままを口にしただけのつもりが、ハルの驚いた表情を見て俺も驚いた。
「な、なんだよそんなに驚く事か」
「予想外の特典にびっくりした」
「は?」
「省吾と『初めて』の時間を共有できる」
「ぶ、なんだそりゃ」
たいしたこっちゃねぇだろと笑った瞬間、視界の端で何かが光った。
「あっ始まった! 省吾、ほら正面」
フロントガラスに目を向けた次の瞬間、目の前に広がる山と山の間から大きな花火が打ちあがった。
真っ黒な夜空にキラキラと光り輝く大輪の花。
「省吾、外に出て見よう」
コートを掴み、ワイン片手に車から降りてみれば、ドンと重い音が夜空に鳴り響く。
「すげ……花火の音ってさ、遠くからでも心臓に響くよな」
「うん、そうだね」
ボンネットに軽く腰掛け、俺達は言葉も忘れて次々と打ちあがる七色の花火達をじっと見つめ続けた。
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