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桜 4

 ベンチに置いていた左手の甲にハルの右手の平が重なり、隣へ視線を向けると、ほんの少し口角を上げて俺を見つめるハルと目があった。 「今年も省吾と桜が見れて良かった」  俺も、と素直に言えればいいものを、構えるともう言えない自分が歯痒い。  返事のない俺を気にする様子もなく、更に嬉しそうに微笑むハル。自分が今どんな顔をしてるかわからねぇけど、顔が熱いって事は赤いんだろうな。  酒のせいだと思いたい。 「桜が咲いて、散って……緑が映える頃に暑い夏が来て、空が高くなった頃には秋が来て、北風に吹かれながら寒い冬が来て……それからまた春が来る」  歌うように囁くハルの声は静かで、心地好く耳に響く。 「まあ、日本の四季だな」 「省吾と出会ってから、俺は季節を感じるようになったよ」 「……いちいち大袈裟な奴だな」  握られた手はそのままに、再び桜を見上げると。  はらり  はらり  風に吹かれた花びらが二枚、ハルの髪と鼻の上に舞い降りた。  それを見て笑った俺を見てハルも笑い、繋がれた手の温かさを幸せだと感じた。 「省吾、明日はどこへ行こうか」 「晴れたらな……まあどこでもいいけど」  再び桜並木を歩きながら、ふたりの家へ帰る。  帰ったらぎゅうと抱きしめあおうと囁くハルに悪態をつきながら、早く抱きしめたいと願った。 <桜:終>

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