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きみは誰のもの 6

◇◇◇  暑い。  五月の沖縄の暑さを舐めていた。 「青木、冷房」 「入れたからすぐに冷えるよ、ほら香取シートベルトして。出発~!」  手配していたレンタカーに乗り込み、青木の運転で沖縄観光が始まった。 「なんか懐かしいな」  流れてゆく景色を眺めながら思わず漏れた俺の言葉に、隣の青木が反応する。 「香取、沖縄旅行は久々なの?」 「いや、旅行で来た事はねぇよ。沖縄生まれで六歳までこっち住んでた」 「え、香取くんて沖縄の人なの!?」  後部席からヨーコさんが身を乗り出してきた。 「っていっても住んでたのもガキの頃までだし、あんま記憶ないッスよ」 「じゃあ親戚の方とかこちらにいらっしゃるの」 「あー、いるかも知れないけど会ってないし」  俺の回答に一瞬静まった車内で、突然青木が声をあげた。 「ああ、だから香取、目鼻立ちくっきりのイケメン顔なんだな~」 「ああ? なんだそりゃ」 「俺、香取の顔スゴイ好きなんだよね。香取あんま自覚ないみたいだけど、普通にイケメンだからね、もう少し愛想よくすればもっと」 「どうでもいいわ、ほっとけよ」  後ろの二人は声を上げて笑っている。  俺は反論を諦め、再び窓の外に視線を向けた。  海の青が、内地の色とは全然違う。  透き通る海の青と、透き通る空の青。  こんなに綺麗なのに、ここを出てから一度も来なかったんだな。  ぼんやりと景色を眺めながら、ふとハルの事を思い出した。  あいつも今頃、この街のどこかにいるんだな。  内緒で来た事を、ほんの少し後悔した。

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