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きみは誰のもの 11

「ちょっと香取、万優さんに見とれるのはやめてよね。いくら胸元がちょっとエロいからって」  俺が口を開くより先に、姉さんにおしぼりを投げつけられた。それすら嬉しそうにニタついている青木を見ながら、そういえばと素朴な疑問が生まれた。 「あんたらって付き合ってんの」  社内恋愛にまるきり興味のない俺の耳には自然と噂も入って来ない。  ふと頭に浮かんだから聞いただけの質問だったものが、まさか姉さんを首まで真っ赤にさせると思わなかった。 「それがさ……」 「付き合ってるわけないでしょ」  ヘラヘラ笑いながら口を開いた青木の言葉を遮るようにピシャリと言い放った姉さんの言葉に少々驚きつつも、そうですかと返事を返すと、向かいのヨーコさんがプククと笑いを堪えている。 「ヨーコもほら、お酒ばっかり飲んでないでこっちも食べて。はい鮑」 「はあーい」  またしても世話好き姉さんの発動ぷりを眺めながら水割りの泡盛を口に含むと、その爽やかな香りですらハルを思い出し、無言でごくりと飲み込んだ。  なんだこりゃ。  いくらなんでも考え過ぎだろ。これじゃまるで俺がハルに会えなくて寂しいみたいじゃねぇか。これまで散々遠距離してきて今更。しかもたった一日で。  おかしい。  やっぱ慣れない事して疲れたせいだな。  さっさと飲んで寝よ。

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