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きみは誰のもの 18
とたんに気分はざわめきだし、目の前に置かれたそばがなんともよい香りをただよわせているにもかかわらず、もはや落ち着いてはいられない。
一刻も早く立ち去ろうと、大急ぎでそばをかっ込みながら、再び窓へと視線を向けた瞬間。
「ぶほっ!」
思い切りむせてしまい、何事かと店員が振り返った。慌てて近くの箱ティッシュを引き寄せ、テーブルと口元をふきつつ、もう一度ゆっくりと窓の外を覗き見る。
向かいのホテルのカフェだろうか、オープンテラスで珈琲片手にノートパソコンを覗き込みながら向かい合わせに座り、会話をしている男が二人。
「……マジか」
見間違えようもない。
ハルと、サワケースケ。
学会前の最終打ち合わせでもしているのか、二人とも真剣な表情で話し合っている。
そばを食べ終えさっさと立ち去るはずが、何故だか二人から目が離せず。
(仕事中のハルは、あんなカオするんだな)
家にいる時のハルとは、別人のように思えた。
通りひとつ分の距離が、まるで地球一周分位、離れているように感じた。
やがてハルが自分のパソコンを指差ながら何かを言うと、サワケースケがハルの背後にまわり、二人で画面を覗き込んだ。
てか顔近いんだよサワケースケ。なんかむかつく。離れろ。
そんな俺の心の声が届くはずもなく、ハルの肩に肘を置き、楽しそうに笑うサワケースケ。それにあわせて同じように笑うハル。
(へぇ……)
なんだよ。
(仲良いじゃねーか)
あんな風に笑うんだな、サワケースケと。
そう思ったらチクリと胸が痛んだ。
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