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きみは誰のもの 21
沖縄の小さな病院で生まれ、六歳までこの地で暮らした昔を思い出す。
あの頃は海の見える大きな一軒屋に、おばあと母ちゃんと俺の三人で暮らしていた。
俺が生まれる前までは母ちゃんの兄弟家族達も一緒に暮らしていたらしいけど、父親の素性も明かさず一人で育てると言う母ちゃんに暴言を浴びせた兄弟達を、おばあがキレて追い出したって話を俺が少し大きくなった頃に笑い話のひとつとして聞かされた程度で、俺が親族に会った記憶はおばあの葬式の時しかない。
それだって、汚いものを見るような目で俺をみるあいつらなんてどうでも良かったし、興味もなかった。
ただ、母ちゃんを馬鹿にするような事を言われた時はめちゃめちゃムカついて、喰ってかかっていったっけ。
(俺もガキの頃は可愛いところもあったんだよな、忘れてたけど)
学校では、父親がいない俺をからかう奴らをガン無視してた記憶しかない。
同級生に友達とよべる奴なんてひとりもいなかったけど、隣の家の兄ちゃんと犬のタロがよく遊んでくれたし、ちっとも寂しくなかった。
おばあが元気で、母ちゃんが笑ってて、目の前には青い海が広がって、風が吹いて、夜が来て、朝が来る。
ちっこい俺にとってはそれが全てで、十分過ぎる位、幸せな毎日。
けどそれもおばあが死んで、全部はじけて消えてしまった。
生まれて初めての、大好きな人と死に別れるという現実。
ガキんちょの俺には多分、しっかりとした実感なんて沸いてはいなかったと思う。
でも、いつも笑ってる母ちゃんがおばあの棺にしがみついて、ボロボロと涙を流しながら声を上げて泣いているのを見て、俺もわんわん泣いたっけ。
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