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きみは誰のもの 23

 女は心配そうな表情で腰を屈め、俺の顔を覗き込んだ。 「怪我してませんか?」 「いや別に」  のそりと起き上がり、身体に付いた砂を払ってから顔をあげ、女の目線が同じ高さだと気付く。  なんとなく足元に視線を落とせば、ペタンコのサンダル。長い睫毛でバシバシと瞬きをしながら俺を正面から見つめる女。  何だよ、見過ぎだろ、怖えぇ。  顔に砂でもついてるかなと腕で頬を擦った瞬間。 「しょう、ちゃん……?」 「は?」  思わず聞き返すと女は更に目を開き、抱きかかえていたジロを手放すと、いきなり俺の両手を握りしめてきた。 「香取の省ちゃん?! 信じられない……本物?!」  なんだこの女。  勝手に騒ぎ始めやがった。 「てか誰、あんた」 「隣の家のジュンだよ! 昔タロと一緒によく遊んだ」  隣の……ジュン兄ちゃん?いや兄ちゃんは男だし。  記憶の中のジュン兄は笑うと目がなくなる位、垂れ目で目が細くて……いやだからそれ以前に男だし。 「あ、そか、化粧してるしこの格好だもんね。でも手術はしてないから、ほら」  女は笑顔で俺の手を自分の股へ。  げげ、こんな旅先でいきなり変質者にされたらたまったもんじゃねー! 「おまっ、何す」  言い終えるよりも先に、指先に触れたもの。まさかの、男の証。  言葉のでない俺に女は、いやジュン兄だという男は、両腕でぎゅううと抱き付いてきた。あ、確かに胸もない。 「省ちゃん、どうしてるかなってずっと思ってたんだよ……まさかとは思ったけど、すぐわかった、変わってないんだもん!」  兄ちゃんは変わり果てすぎて面影ひとつみあたらねーよ……。 「目つき悪いとことかもう、昔のまんまー!」  キャハハと笑われ、そうか俺の目つきの悪さは生まれつきかと改めて少し凹んだ。

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