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きみは誰のもの 29
◇◇◇
ジュン兄と別れた後、軽くドライブしてからホテルへ戻った頃には夕暮れで、青木達はダイビングから戻ってきていて既にホテル内の食事処で酒盛りをしていた。
飲んだくれ連中のパワーにはついていけねー。
昨日の反省も踏まえて今日はチビチビとのんびりペースで飲んでいると、気付けば俺以外の全員が早々にダウンしていた。
朝からダイビングで散々遊びまわってりゃ、酒もまわるだろうに。
二十一時を過ぎた辺りで解散となり、昨日にかわって今日は俺が青木を担いで連れて帰る羽目に。
「重い……」
ベッドに放りなげてハアと大きく息を吐く。青木、昨日は重かっただろうな。悪い事をした。
ゴロリとベッドに横になれば途端に瞼が重くなり、そのまま目を閉じる。
ベッドがふかふかで気持ちいい。
ああでもまだ、ハルから電話が来てないんだった。
起きて……。
◇◇
暗闇の中で揺れる身体。でも淋しくはない。
とくん
とくん
目を閉じ、身体を小さく丸めて、温かな音に耳を傾ける。
『もうすぐよ』
優しい声が聞こえる。何だか嬉しくて、小さく笑った。
『あなたは幸せになるために』
『生まれて来るのよ』
光が溢れ、ゆっくりと瞼をあけ、一番初めにこの目に映したもの。
『おいで』
母ちゃん、若けぇよ。
目の前には先の見えない一本の道。
ちっこい俺の手を引き、少し前を歩く母ちゃん。俺はちっとも恐くない。
母ちゃんは時々振り返り、俺の顔を覗きこむ。俺はそれが嬉しくて、繋がれた指先に力をこめた。
そのうち周りは騒がしくなって、沢山の人達とすれ違い、並んで歩いていく。
おばあが元気に歩いてる。
ジュン兄がタロと一緒に駆け寄り、隣に並んだ。
道はいつしか大きな道。でもやっばり先は見えない。
気が付いたら隣に母ちゃんが居なくなっていた。
慌てて後ろを振り返ると、少し後ろに母ちゃんは居た。
笑って手を振ってくれたから、俺は安心してまた前を向き、歩き始めた。
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