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きみは誰のもの 30
晃が俺の手を引き走り出す。
他の奴らも騒がしくふざけ合いながら走りだし、それが何だか可笑しくて、俺は声を上げて笑った。
走って、走って。
広がる一本の道はやがて様々な道と折り重なり合い迷路のように入り組んでいく。
でも、大丈夫。笑い合える仲間がいる。振り返れば母ちゃんも変わら
ずに笑ってる。
だけど何かおかしい。何かが足りない。
周りは騒がしく、人波に揉まれて前は見えない。
俺はふと立ち止まり、辺りを見回した。
探してる。
誰を?
職場の仲間が手をあげ早く来いと言ってる。立ち止まってる場合じゃない。でも何かが足りない。
人波に押されよろけた先は道の端で、底の見えない深い谷。
その向こうには別の道が見えた。同じ様に行き交い、笑い合う人々。
でもそこに俺の居場所はない。視線を戻し再び歩き出そうとした時、俺の瞳が何かを捉えた。
周りより頭ひとつ分背の高い男。
あの後ろ姿を俺は知ってる。
『 』
名前を呼びたくても、言葉が出てこない。
背後で俺の名前を呼ぶ声を耳にしながら、俺は動けずにいた。
姿が、見えなくなる。
危ないと叫ぶ声が聞こえた。
誰かが俺の腕を掴む。
それを振り切り、助走をつけて俺は思い切りジャンプした。
深い谷の、その先へ。
『 』
ハルが、振り向いた。
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